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退屈な日常とか、虚像の世界とか

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「ツナ君?」
冷たい風が吹く夕日に赤く染まった世界の中、俺は最も会いたくなかった最愛の彼女に出会ってしまった。

目を丸くした京子ちゃんによって確かめるように呼ばれた自分の名前に唾を飲み込む。

「・・・久しぶり、京子ちゃん」
笑みを作って言葉を紡いだ俺に京子ちゃんは戸惑いながら数歩近づいて、

「その怪我・・・・どうしたの?」

俺の右腕を見ながら戸惑いがちに問いた言葉に、半袖のシャツの袖口から覗く幾重にも巻かれた真新しい包帯に心の中で舌打ちをする。
「えーっと・・・・」
そして言い逃れの言葉を探しながら口を開き、

「ごめん」
「・・・え?」

それを遮って京子ちゃんが言った謝罪の言葉に呆けた声を出す。
 

「余計なこと聞いちゃってごめんね」

顔を俯かせてそう言った京子ちゃんの表情は分からない。
ただ、嘲笑いを含んだその声に胸が締め付けられて。

京子ちゃん、と出しかけた言葉は赤い世界で作られた笑顔を前に君に届くことはなかった。

「じゃあね、ツナ君」
バレバレな作り笑顔のままそう言って、呆然と立ち尽くす俺を置いて歩き出す。
赤い世界に小さくなるその背中を見つめて、知らず噛み締めていた唇を開く。

「ごめんね、京子ちゃん」
心配をかけてしまって。
何も話すことができなくて。
そんな哀しい笑顔をさせてしまって。


「ごめん・・っ」


誰の耳にも届かない謝罪の言葉は、滑稽な俺を嘲笑うかのように吹いた風に掻き消えていった。

 
 

悪いのはキミじゃなくて弱虫の僕なんだ
(だから、)(君から逃げる僕を許して下さい。)

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どうすれば君が振り向いてくれるのか。
それを考えてこれしか思い付かない自分に嫌気が差す。
そう思いながら鼻につく強い匂いに眉を寄せ、店のガラスに映る前髪を分けた自分の姿に息を吐き出す。


───そう。考えた結果のあいつの真似。
 

悔しいことにあいつは成績優秀で女の子から人気があって、その女の子達曰くカッコいい(らしい)。
性格はすげえムカつくけど、あいつは俺が持っていないものを全部持っている。
そんなあいつに惚れている君を振り向かせる作戦を無い頭で考えて、考えついたのがあいつの真似をすることだった。
だけど今から頭をよくするなんて無理だし性格や顔なんて変えられるわけない。
悩んだ挙げ句、選んだのが「前髪」。

「・・・・なにやってんのかなあ、俺ってば」
しかしいざ作戦を実行した自分を見て、湧き上がってくるのは自分に対する呆れのみ。
もう一度深く息を吐き出し、滑稽な自分の姿から視線を逸らし、

「なにやってんのよ?」
「わあああっ!!?」

突然背後からかけられた声に大声を上げ、ばっと後ろを振り返る。

「さ、サクラちゃん・・・!」
そして、ばくばくと速いスピードで心臓が鼓動する音を聞きながら、目を見開き驚いた顔で見るサクラちゃんの名前を口にする。
「お、驚かさないでほしいってばよー」
「こっちが驚いたわよ・・・・ん?」
抗議の言葉を述べてさっきとは違う安堵の息を吐き出す。
そんな俺にサクラちゃんは不服そうに言葉を返して、そして最後に疑問符を上げた。

「なに、それ。イメチェン?」
訝しげに問うてくるサクラちゃんに瞬きをし、その視線が俺の額らへんに向いていることに気づき、ばっと凄い勢いで両手を上げる。
「い、いやっ、な、何でもないってばよ!」
上げた両手で前髪を隠し、サクラちゃんの視線を遮断する。
汗を浮かべながら引き攣った笑いを作った俺にサクラちゃんは不可解そうに眉を寄せ、
 

「いつもの方が良いわよ」
 

不意に一言。

その言葉が理解できず、え?と間の抜けた声を出すとサクラちゃんはしまったという感じにしかめ面になって顔を背けた。
その頬がいつもより赤く見えるのは俺の勘違いなのかもしれないけれど。
さっきまで胸の中にあったマイナスの感情はいつの間にかどこかに行って、代わりにこそばゆい気持ちがあって。
 

「んじゃ、そうするってばよ!」
 

自然に孤を描いた唇でそう言って、前髪をぐしゃぐしゃにした。

 

なりたくても、なれない
(でも、そんな僕がいいって君が言ったから)(僕は僕のままでいようと思った)

幼い頃に君と描いた一枚の未来図。
笑いながら、クレヨンで遠い未来の事を描いた。

君が居なくなって、そんな何時かの記憶も時の流れに薄れて消えていった。

だから、あの日。
引き出しの奥でグシャグシャになっていたそれを見つけた時、懐かしい蜜柑の香りを思い出して──────


「よっし、準備完了!」


自転車のかごにリュックサックを納め、一つ声を出す。
そして、玄関に戻って施錠をして、鍵をズボンのポケットに突っ込む。

ふと空を仰ぐと、夏らしい青い空に入道雲が浮かんでいた。
そして、その真ん中で光り輝く太陽に向けて握った拳を突き上げる。
 

きっと、君は幼い日のこんな戯れ事を覚えていないだろう。
だけど、俺は思い出したから。

だから、何時かの下らない約束を叶えるために、君に会いに行く。


───っし、行くか!」

青空の下。
一枚の未来図と、それと一緒に見つけたおもちゃの指輪を君に届けるため。
蝉の鳴き声が降り注ぐ中、俺は強くペダルを踏み込んだ。



君と描いた未来図を手に
(さあ、俺の手で現実にしてやろうか

「ん・・・・んん?」

あれ、おかしい。
たった今導き出した答えに違和感を感じ、首を傾げて過程を見直す。
だけど何度見直しても答えは同じものになってしまう。
それなら正答なんじゃないかと思うけど、間違ってる気がしてならない。

「はぁ・・・・」
重い息を吐き出し、ペンから手を離し椅子の背にもたれ掛かる。

綱手師匠の下で修行を始めてから半年。

師匠が教えてくれる内容は、アカデミーの頃の勉強なんかと全然比べものにならないくらいに難易度が高い。
勉学に関してだけは持っていた優越感も、この半年間で完膚なきまでに叩き潰された。
(・・・ダメだ・・・)
胸中で広がり始めた劣等感を振り払うように頭を振り、しかしまたすぐに沸き上がってくるそれに重い息を吐き出す。
そして力無く目を閉じて、思考を暗闇に沈めようとして。


『サクラちゃんっ』


不意に頭の中で響いた声と、透き通った青色に目を見開いた。
開いても脳裏に映った青色が消えることは無く、きらきらと輝いてみせる。
その輝きは、一瞬にして私の負の感情を消し去り、代わりに胸いっぱいの勇気を残した。
それによって熱くなった胸を押さえ、深く深呼吸をする。


大丈夫、頑張れる。


「・・・よしっ」

小さく葛を入れ、今ある難題を突破すべく、再びペンを握りしめた。

 

 

記憶の中にある青空は
(いつでも私に勇気をくれる)

『優勝はマサラタウンのサトシ選手ーっ!!』

熱の篭った実況に画面の向こうで歓声が沸き上がる。
そして、画面に映された少年は彼の元に駆け戻ってきた電気鼠を自分の肩に乗せると、弾けるような笑顔になった。

 

「優勝かあ・・・・相変わらず凄いわね・・・」

感嘆の息と共に言葉を吐き出し、授与された優勝トロフィーをテレビカメラに見せつけるサトシに軽く口角を上げる。


私がサトシ達との旅を止めて7年。

サトシは成長した。
時と共に体が大きくなって、そしてそれ以上に多くの経験によって内面的に大きくなった。
彼が幼い頃から抱いていた夢を叶えるのもそう遠くはない。

それは、共に旅をした仲間としてとても嬉しいことのはずなのに。

心の中では、喜びと嫉妬と寂しさが入り混じった、よく解らない感情が渦巻いている。


ジムリーダーの仕事に不満がある訳ではない。
だけど。
私だって夢を叶えたい。

その気持ちを抑えてジムリーダーの役目を果たさなくてはいけない自分と違って、夢の実現のために経験を積むことができるサトシに対する嫉妬。
サトシが成長するに従って、遠い過去の物になっていく自分と過ごした時間を、自分の存在を彼は忘れてしまうのだろうという寂しさ。

その感情を自分の中に見つけた時、私はサトシを追うことをやめた。
どんなに追いかけても、この手がサトシに届くことはないと知ってしまったから。


喜びと嫉妬と寂しさと、それらを抱く自分に対する嫌悪感。


「ルリ・・・」
「ごめん、ルリリ。何でもないよ、大丈夫」
そんな私の気持ちを感じ取ってか、慰めるように体を擦り寄せてきたルリリに微笑み、震える手でその体を抱きしめた。



 

僕は空を見上げることしかできなかった
(手を伸ばすなんて、)(なんて愚かな行為だったのだろう)

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