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退屈な日常とか、虚像の世界とか

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「ナミ」

名前を呼ばれて顔を上げれば、真剣な顔をしたルフィがいた。

「なに?蜜柑ならあげない───

横に置いていた蜜柑の籠を体の後ろに動しながら言葉を返し、


「好きだ」


何の脈絡もなく、突然言われた言葉に耳を疑った。

訊き返そうとして、ルフィが向けてくる真っ直ぐな視線に言葉が喉で止まる。
視線も逸らせず、唾を飲み込み、ゆっくりと口を開く。


「ありがと。私もルフィのこと好きよ」


そう言うと、ルフィは不機嫌そうに眉を寄せ、一歩、近付いて来た。

「・・・・・ナミ。おれはまじめに言ってんだ」

そう言うルフィの、いつもよりも低い声に小さく体が震えた。
それを、拳を握りしめることで何とか抑え、ルフィを半ば睨みつけるような視線で見上げる。

「私だって、まじめよ。私は──
「おれは」

大して大きな声でもない、寧ろいつもよりも小さなルフィの声にまた言葉が止まる。


「仲間としてじゃなくて、女としてナミが好きなんだ」


───っ!?」


その言葉に、目の前が真っ暗になった。
叫びそうになる心を抑えて、息を何度も吸う。


「私は、」


酷く掠れた声に気付かないふりをして、言葉を紡ぐ。

「私は、違う」

その言葉にルフィは目を細め、無言で私を見下ろした。
向けられる視線に、私の方が視線を逸らしそうになる。
でも、逸らしてはいけない気がして、必死に視線を固定させる。

「わたし・・・・・、は、」

たったそれだけの言葉を言うのがとても大変で、それでも続きの言葉を発するために口を動かす。


「あんたを、仲間以上だとは思わない」


そう言い、蜜柑の入った籠を持ち上げて立ち上がる。

「ナミっ!」

それと同時にルフィは残りの距離を詰め、私の腕を掴んだ。

「触らないで!」

その手を拒絶の言葉と共に、力の限りに振り払う。

驚いた顔をしたルフィは、でもすぐにその表情を消して、無言で払われた手を元に戻した。

「一つ、謝る」

異常に上がった呼吸をして、短い言葉を発する。

「さっきの嘘よ」

籠の紐を強く握り、逸らしそうになる視線をルフィに縫い止め、唇を噛んで波立つ感情を抑える。

「私はあんたのことが────

声が、体が、震えて、背中を冷や汗が流れる。




──────────大嫌いよ」




自分でも驚くくらいに冷たい声。

ルフィが何かを言うためか、口を開こうとしたけど。


その前に、

ルフィの前から逃げ出した。



 

恋や愛に浸るには、遅すぎた
(あんたがそんなこと言わなければ)(諦めることができたのに)

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