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退屈な日常とか、虚像の世界とか

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「あ、山本君だ」

不意に、隣を歩いていた京子が楽しげな声を上げた。

「どこ?」
「ほら、あそこ」

そう言うと、京子は校庭の端っこに居る集団を指さす。

「見えた?」
「うん、まぁね」

その集団の中心となっている場所で両腕を頭の上に振り上げている男子、山本。
いる場所はマウンド。
ダイアモンドの中心。

その腕が振り下ろされ、バッターボックスにいた男子のバットが回る。

「ストライクッ!」

わぁっ、と京子が感嘆の声を上げる。

「あれ、沢田と獄寺じゃない?」

3アウトを取ったのか、攻守を入れ替わる男子から視線を外すと、少し離れたところに同じように観戦している沢田と獄寺が居た。

「あ、ほんとだ!ツナ君、獄寺君!」

名前を呼ばれ、驚き赤面する沢田に嘆息しつつ、先に走っていった京子の後を追う。

「あ、黒川。次、山本の打席だよ」
「なんで私に言うのよ」

そう沢田に返した時、山本がバッターボックスに入った。

振りかぶったピッチャーの腕が振り下ろされて、その手から白球が飛びだして、
山本がバットを振る。



金属音。



校庭に散らばっていた男子たちが、空を仰ぐ。
白いボールは青い空を切り裂いて、外野を越えて、校庭の端っこに落ちた。

「よっしゃぁっ!」

バッターボックスで山本がガッツポーズをする。

「山本、凄い!ホームランだ!」
「格好いい!」

わぁっ、と騒ぐ沢田と京子の声に気づいてか、山本が私達を見て、笑った。

「凄いね、花!」
「凄い?」
「ふふっ、ほんとは凄いって思ってるくせに」

悪戯っぽく笑う京子の頭を軽く叩いて、ダイアモンドを回る山本に視線を移す。

彼奴がバッターボックスに入って、バットを構えた時。
ぎりぎり見えた彼奴の表情に、

思わずドキリとした。


いつもは見せないような、真剣な表情。
いつもガキって思ってたけど、そんな考えが吹っ飛んで。

「黒川!」

ホームベースを踏んだ山本が、名前を呼んだ。

「スゲェだろ?」

得意げに笑うその表情に、思わずつられて小さく吹き出した。

「スゲェじゃないの」

そう言い返すと、隣で押し殺し損ねた京子の小さな笑い声がした。





空へと弾かれた真っ白なボール
山本君、花が見てるって知ってたでしょ?)(おう。だから、ここは格好いいとこ見せようと思ってな。俺、猿とか言われてるんだぜ?)(ちょっと、何こそこそ話してるのよ?)
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